――前章――

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 隊長と呼ばれる男はふぅむと息を吐いて言った。 「訳もなく、ワシが親友の娘の下を訪ねてはならんのか?」  そう言って、机に肘をついてラヴィを見る。それにラヴィは「いえ」と申し訳なさそうに笑った。  隊長はラヴィの父とは昔からの知り合いらしく、大人二人で小さい頃からラヴィやクロアに剣などを教えてあげていたものだ。  父親が亡くなってからも、何かと面倒を見てくれているのが、この人だ。  ラヴィを第三部隊に誘ってくれたのも隊長だったりする。  ガサツで乱暴者で短気な人だけれど、本当は優しい人であることをラヴィは知っている。……何故だかクロアとは馬が合わないらしいが。 「どうだ? お前がこの隊に入ってから三年が経つが、騎士の仕事も流石に慣れてきたか?」 「はい、おかげ様で大分。最初は女性の騎士ということで色々と問題がありましたが……今では皆さん、普通に接してくれていますし」 「まぁ、そうだろうな。他の軟弱な隊に比べ、なんたってうちの隊の奴らは殆どがワシに似て実力主義の奴らだからな。お前の実力を奴らが認めたってことだろうよ」 「……そうでしょうか。それならいいのですが」  遠慮気味に言えば、隊長がバンッとラヴィの背中を叩く。鎧越しでも直に叩かれたのではないかと思うほどの衝撃が背中を襲った。ちょっとむせそうになった。 「当たり前だ。ワシとアイツが鍛えてやったんだぞ。それ位出来てもらわなければ困る」 「そ、そうですね。……でも、本当に隊長にはお世話になりっぱなしで……何時もありがとうございます」 「気にするな。ワシとて好きでやっとることだしな」  と、隊長が指でクイッとした動作をする。飲むか? と伝えているが、申し訳ないけど断らせてもらった。  不服そうな顔を見せて、隊長は立ち上がって、直ぐに戻ってきた。酒瓶を片手に持ちながら。そのまま瓶に口を付けて一気に煽った。
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