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「ねぇ、起きて。もう、朝だよ」
空には雲がほんのりとかかり、雲を通って明るさを多少失った朝日が窓から差し込んでいた。
雲の所為ではないが、季節的にじっとりとした蒸し暑さのようなものに悩まされる、微妙な季節。
現に部屋の中に入った時から気持ち悪さを感じていた。
夜は毛布がなければ心許無く、どこか肌寒い。だけど、朝日が昇るにつれて毛布が邪魔になってくる。
どうやら、彼は例に漏れずそうだったらしい。
少女は眼前のベッドでだらしなく毛布を蹴飛ばして熟睡している見慣れた青年の肩を揺さ振る。それに対して寝ぼけ助は邪魔臭そうに、嫌そうに唸りを上げて背を向けた。
溜息を吐く少女。だが、呆れているよりもむしろ、優しげな青い瞳で何度眺めてきたかも分からないあどけなさの残る寝顔を見つめていた。
普段は鋭さを感じさせるような整った顔立ちのしている癖に、寝顔になるとこうも可愛く見えるのは反則だと思いつつも、気付けば、手は自然と青年へと伸び、寝癖を直すように彼の艶やかな黒髪を撫でていた。
「……ねぇ、起きてよ。明日は朝早くから仕事だから早く起こしてくれって言ったのはクロアなんだから」
一方で髪を梳くように撫で、もう片方の手で優しく肩を揺する。
その揺れがどうも心地良かったのか青年――クロアはせっかく目覚めさせかけた意識を再び睡眠の深淵へと潜り込ませようとしているようだ。
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