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「クロアぁー……!」
自分で頼んでおいて起きないのはどういった理由だ。
流石に痺れを切らして肩を掴み、もっと強く揺すってやろう――としたが。
「えっ」
その前に手首が握られ、強い力でぐいっと引っ張られた。
「ぐえっ」
温もりに満ちた胸元に引き寄せられる。馴染みのある優しい匂い、胸の鼓動、そして苦しく漏れてしまったような声。
「……鎧、着てるとは、な。予想外の痛みが俺の腹部を中心に走ったぞ……」
胸から顔を離して見上げてみると、そこには悪戯を失敗したような、痛みで片目を瞑る薄ら笑いのクロアの顔があった。
思わずクスッと笑うと、クロアはムッとした視線を少女に向けた。
「私もクロアみたいにこんな早くじゃないけど、朝から仕事はあるから。起こすついでに着替えておいたの」
「……なんで今日に限って妙にやる気なんだか。いつもだったら寝巻のまま起こしに来る癖に」
「ふふっ、でもそのおかげでクロアの目は覚めたわけだからいいじゃない。それとも、いつも通りの方法で起こして欲しかったの?」
「心から遠慮する」
今日に限らず寝起きの悪いクロアを起こす方法としてある特別な方法があるのだが、今は置いておこう。
それから、何とも言えぬほんわかとした甘みを含んだ空気が部屋中を満たし、互いに言葉が交わされることはなかった。
温かい。布団の温もりだけじゃない、彼の、鎧越しでも伝わる柔らかな体温。彼女に心からの安堵と幸福を与える温かさ。
それが、まさに目と鼻の先、彼女の唇がクロアの首筋を少しでも顔を動かせば触れてしまうほどに近いのだから、自然と恥ずかしさ故か顔に熱が集まるのを感じていた。
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