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「あの……、そ、そういえば、今日は何の仕事なの? クロアの隊は基本的に街の見回りが主だったはずでしょ?」
我ながら情けないほど緊張していた為か、思い付きで発した言葉はどこか固さを感じさせた。
「……城ん中の宝物庫周辺の警備。最近何かと物騒だからな。念の為にって事で俺ん所の隊に二日前ぐらいにそんな命令が下ったんだとよ」
「そ、そうなんだ……。それは、その……御愁傷様。あっ、でも確かに最近は妙な事件が多いから……ほら、この前の集会でも言ってたじゃない」
「んっ、あぁ。えーと、何だったけか……。あー……」
「覚えてないならそう言いなさいよ。……まったく、クロアだって市民を守る騎士団の一員なんだからいい加減自覚を持ってよね……」
そう言っても悪びれた様子すらも見せないクロアに溜息を一つ漏らして、彼女は三日前の集会で話された内容を我儘な子どもを諭すように聞かせる。
「数日前からこの王都で誘拐事件が多発しているのは知ってるでしょう?」
「……あぁ、それで?」
「それは大人や子供、男性や女性に関わらず、もはや手当たり次第って感じらしいの。でも、犯人の足取りも掴めないし、痕跡すらも残ってない。だからね、騎士団の方でもお手上げ状態なんだって。だから、通常の警邏の動員数を増やして警備を強化するって騎士団長が直々に仰っていらっしゃったじゃない」
「あー……確かにそんな事言ってたな、あのおっさん」
「失礼な事言わないの。騎士団長閣下は素晴らしい方よ? ……本当に、何時までも子供のままなんだから、クロアは。そんなんじゃ何時まで経ってもお父さんのような騎士になれないわよ?」
言って、後悔した。彼女の父はクロアの過去を刺激する要因となりえないからだ。
気まずそうな雰囲気を醸し出し始めた彼女に気付いたのか、クロアは彼女に見られない内に小さく優しげな笑みを浮かべた。
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