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「おい、どいてくれないと起きられないんだが」
「えっ、あっ、うん。ごめんなさ……って、事の発端はクロアじゃなかった?」
釈然としないが、確かにどいてあげないと起きられそうにないので、唸りながらもここは素直に引いて上げる。
「……なんだ? その如何にも俺が悪いって言いたげな唸りと視線は。……さっきまで呆けてたくせに……期待してたんじゃないのか?」
「なっ!」
図星だった。あまりにも直球すぎる物言いに過剰に反応しすぎてしまったのがいけなかった。
ニヤッとクロアの唇が緩いカーブを描く。まるで悪ガキが浮かべる意地悪い笑みが浮かんでいた。
「おっ、なんだ図星か? 誇り高き女騎士様は一体何を期待してらっしゃたんでしょうねぇ?」
「べ、別に何も期待してなんか……」
「本当に、何も?」
「ほん、とうに、何……も」
挑発的に迫り来る男性のものとは思えないほど細く整った顔立ち。自然と視線は一点に集中してしまう。
頬に熱が溜まるのを感じていた。真正面から見つめていられなくなって、顔を逸らす。
「……なんてな」
「あう!」
寸でのところでクロアは止まって、彼女の前髪を掻き揚げ、剥き出しになった小さなおでこに一発デコピンをお見舞いした。
軽い衝撃にのけ反り、額を撫でる。
恨めし気に睨みつけても、当のクロアは我関せずと言った様子で立ち上がり、おもむろに寝巻の上着を脱ぎ出した。
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