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小さな町の片隅に、小さな館があった。
普段そこの主人は薬を売ったり、雑貨を売ったり、時に宿屋として部屋を貸したりしている。
それだけではどう考えても生活にならない筈だが、そこの主人が外に出て働く姿を見た事がない……。
ちなみにその館の名を“魔天楼”と言う。
ギギィ――…
重たい扉が開く音がする。
魔天楼の中庭からだ。
中庭のすみに両開きの巨大な扉あった。
置物のようにそこに置かれた扉がゆっくりと開く。
「――――おや、珍しい御仁が来ましたね」
「……アル」
扉の奥から現れたのはマントをはおった男だった。
男は館の影にいる者の名を呼んだ。
暫くして姿を現したのは、長く美しい翡翠色の髪を持った女だった。
女は漆黒の瞳を細くして微笑している。
男はその女に金色のカードを見せた。
「……切れてますよ。その定期」
「えっ!」
男の驚きように、女はくすりと笑った。
「まぁ、良いでしょう。今回は見逃してあげます」
その時、突然の突風が起こる。
男のマントと女の長い髪が揺れた。
「ようこそ、魔天楼駅介し、人間界へ」
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