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東京某所時刻は夜。カツカツと不規則な音を立て6センチのヒールを履いている女性、宮前春子は無我夢中で走っていた。
何故こんな事になったのかと、いつものようにうざい上司の小言を聞いてお茶を組んで書類を何枚もコピーして仲のいい職場の動機と飲みに行ったその帰り道。
宮前春子のその日常は脆くも崩れさった。
最初は暗がりの夜道で野良犬かと思った。
そのシルエットで恐らく何かの動物だと。
チカチカと今にも消えそうな電灯はあの独特な音立てその光を頼りに目を凝らしてみるとそこには居た。
どうして見てしまったんだろう、と彼女はすぐさま後悔した。
夜道に照らし出された「それ」は明らかに犬の外観ではなくまるで何かの獰猛な獣だった。
映画やTVなどでしかみた事のない存在、“狼”のようなカタチ。
その獣はだらしなく涎をたらし息を吐き出し、鋭い牙がこれでもかというくらいに主張している。
黄金色をしている目が獲物を捕える。
前足でアスファルトをかきそのまま後ろ足を蹴ると彼女に向かって迫って来た。
その瞬間、宮前春子は弾かれたように逃げ出した。
ともかく走る、走る、走りにくいヒールだが今は気にする余裕がない程に人生で初めてこんなに必死に走る。
ともかく頭の中は逃げる事が精一杯で声を出すこともできず走り出す。
道なんかわからず滅茶苦茶に、ただがむしゃらに。
ただ分かる事は恐らく自分があの獣に捕まった時、死ぬだろうという事は体全体の本能で危険をいやと言う程察知していた。
こんな時に限って人っ子一人いない。
否、いたとしてもどうしようもできないだろうに。
それ程までにその獣は恐ろしかった。
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