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じりじりと距離が縮まっていく。
後ずさりながら、それでも生きたい衝動にかられる。
トンと背中に当たる冷たいアスファルトがこんな時にやけにリアルに感じる。
「っ…いやぁ…こないでっっ…!」
獣に伝わるはずがないのにぐしゃぐしゃに顔を歪めながら懇願する。
ふと、そういえば同僚とお酒を飲んだんだ。
少し飲みすぎたからもしかしたらこれは何かの夢かはたまた酔いすぎて少し頭が混乱してるのかもしれない、なんて都合のいい奇跡を願ってみた。
そんな願いも虚しく微塵も消し去るように獣の爪が春子の腕をかすめ、痛みを伴う傷をつけていく。白いブラウスは千切れその下に露わになった腕には赤い傷跡がはっきりみえた。
これは現在だと否が応でも思い知る。
「いやっ…いや…ぃやぁああっっ!!」
まるであざ笑うようにグルグルと喉を鳴らしポタポタと涎を地面に垂らす。
そしてグアッと大きな口を開き不揃いな牙をむき出しにした。
その瞬間、宮前春子は死んだと思った。
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