赤ずきんちゃん。

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目をつぶる事も出来ずに見開いたその目は、ただ迫ってくる目の前の危険を見ている事しかできなかった。 宮前春子の薄茶色の瞳に映ったのは赤。 真っ赤に染まった、赤よりも美しい赤。 美しい赤い鮮血が宙に舞う。 それは宮前春子自身の血だと思った。 自分の中に流れる赤い、血だと。 けれど。 死んだのは自分ではなく獣であった。 その血は無惨にも首がざっくりと切られた獣自身の血であった。 ドサリ、とその立派な四肢を地面にうずめそのまま起き上がる事はなかった。 流れ出る血がアスファルトを赤く染めていた。 思考が停止した宮前春子は今起きた事に対し理解出来ないでいた。 生きる事を止めた獣の向こう側に、赤い頭巾をかぶった誰かがいた。 月に照らし出されたその顔はまだ幼さが残り少女だと言うのが分かる。 不自然なのはその手に体に似つかわしくない大きな刀を抱えていた。 銀色の刃先には赤い血が滴り落ちている。 この子が殺したのか?あの獣を? 分からない。 恐怖で宮前春子の体が思い出したかのように震えだす。 ピチャリと、血だまりに足を踏み入れた少女は彼女に近づいてくる。 自分より幾分年下の少女に彼女はハッキリと、言いようのない畏怖を感じた。 「なっ…なんなの…あなた…っ??!」 絞り出された言葉は疑問。 しかし少女は答える事なく宮前春子の目線に合わせ血の様に赤い色をした瞳で見る。 「あなたは知らない方がいい。」 少女特有の可愛らしい声で始めて口を開くとその手のひらで彼女の目を塞ぐ。 瞬間、世界が揺れた。 最後に小さな手のひらの隙間から見えたのは獣が青い真っ青な炎に包まれている姿とやけに目に残る赤い色の頭巾。 それはまるで昔読んだおとぎ話の赤ずきんちゃんのようだ、と、 そしてそのまま彼女の意識は途切れた。
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