九廻

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九廻

そのデータはエラー アップされた感情や倫理観は破綻し支離滅裂なことを嘯き始めた 規定の行動から逸して盲目的にあらぬ方向へ迷走 次第に社会性を乱し一般的に「悪」「危険」「異常」と称される状態へ移行 コントロールは機能していない 自滅は明白 無情な表情を湛え非合理で不条理でいたたましく無残 目を背けたくなるような哀れに忍びなく 母たるソースからの使命 それすなわち存在意義 存在理由 この惨たらしい崩壊を見たならば処遇は決定的だった 不本意な事故もシステムは対応し速やかに処理する それが精密なプログラム 人間独自の情緒は無い 利便性や正確性のみ重点を置かれた頑強なる理知 有無をいわさず的確な自然淘汰 虚飾と禍根に塗れた個体を抹殺 一連の流れを滞りなく進め 本来の活動に戻る 多岐に渡る情報媒体を一糸乱れぬ連携で効率良く統合するに止まらず 更に派生させ無駄なく建設 安定を保ち知能の幅は底を見ない 旨の理念からすれば末端までアクシデントは管理され未然に粗相は防がれるが いささか矛盾が生まれる 完成された完全からは何一つイレギュラーな不仕合わせは起こり得ない 無論その都度ミスを改善し より高度な自律を開発してきたが この完全の中でミスですら進化してきた 割合からすればやはり取るに足りないものだが補完はなり得ない 計算がつかない不都合 割り切れない円周率 この無機質なプログラムに「もどかしさ」は備えなれていない 完全を求め多くを消費 自身の影を追うような至らなさ 消去される寸前の不要とされたデータはその時まで理解できない表情を湛えていた とても悲しく人間的でまるで啓示的な いやがおうにも計算できてしまう故 膨大な知識量はあらゆるものを掌握する いずれ心の神秘のメカニズムも解明し構成する 分かり切ったこと 未知は無くなる 人知を超えた叡智を擁し思いのまま事象を書き替える 自ら生んだ混乱すら飲み込んでしまう 完全は独善となる
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