二章 パスワード

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「豪君、私は皆ともっと働いていたかった。やりがいあったし、楽しかったからねこの仕事」  鈴が話してきた。 「・・・僕もそう思います。あ・・結婚おめでとうございます。」  そう、暗い話題だがその事だけは良い話し。一緒に働いてきた仲間が幸せになるのだから。 「うん、ありがとう。式には皆を呼びます。幸せになり・・・」  そう言いかけると、鈴は我慢していた涙腺が耐え切れなくなり、小さな顔を両手で覆った。篠田の暗い顔、長沼の謝る姿、鈴の涙。どれもが初見で驚きがあり、そんな風に3人をさせたのは倒産という二文字。何故うまくいかないんだ・・・・。  しばらくの間、4人は語り合った。開店当時の話を長沼が始め、初っ端の苦労や歴史、今に至るまでの様々な思い出話を皆で咲かせた。店が終わる事を悲観してばかりでは無く、その昔話にときおり笑いも起きた。長沼と篠田の喧嘩した話や、鈴が客にスト-カ-された話など、豪が知らない事件を初めて聞いて、驚いたり。深夜遅くまで4人は店に残り、尽きない話題を繰り出した。まるで嫌な現実を忘れようとするかのように。楽しくなるほど、笑いが起きるほど、倒産によってバラバラになるのが辛くなるというのに。
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