二章 パスワード

5/13
前へ
/33ページ
次へ
 離職票を提出した後、求職カ-ドを作成。一連の作業を終え、豪はPCに腰を下ろした。希望の賃金、場所、年齢、条件をクリック。該当したペ-ジをめくっていく。しかしこの溢れ返った失業者を見れば頷く。希望通りの職は無く、調理業も資格要などばかりだ。車の無い豪にとっては、勿論近場が良かったが、場所を広げて再検索をした。・・・無い。賃金を落として再検索。・・・無い。場所を更に広げた、電車通勤になるが仕方ない。・・・無い。資格があれば・・遊んでいた自らの学生生活を振り返り、後悔の念を募らせ、職が見つからない焦りと不安に豪は悲しみを覚えていた。賃金を更に1万下げて再検索。・・・無い。もう支払いがキツいが更に1万下げて再検索。1件ヒットした。 [パスワ-ドを入力して下さい] ??なんだこれは。  職業が羅列したものから、突如背景が真っ暗になり、画面中央にこの白い大きな文章が現れた。文章下にはスペ-ス欄がある。ここにパスワ-ドを打ち込むようだ。  バグか?いや、バグにしてはおかしい。何故なら・・  辺りからざわめきが聞こえた。40台設置されてある安定所のPC。その全てでこの不明な画面が出現していたのだ。  係員が駆けて来たが、首を傾げている。こんな事態は前例が無いのだから仕方ない。  何者かがこの回線にウイルスを送ったのか、求職する人間に対しての嫌がらせか。豪は騒然としたフロアの中で、PCの前で立ちつくしていた。 「おい、どうなってんだ!」 「パスワ-ドって何?」  色んな罵声や、混迷な声が聞こえる。原因はどうであれ、早い所復旧してほしい・・好奇心や苛立ちは無く、早く職を探したい豪の率直な感想だった。通常の広告やエラ-通知のような閉じる印が無い。サイトに飛んだというよりも、フリ-ズした感じだ。元の画面に戻したいが、その手段が見当たらないのだ。  その時隣の中年男性が、おもむろにキ-ボ-ドを打ちだした。横目で見ると、どうやらパスワ-ドを入力しているようだ。 <ブブ--ッ!> まるでテレビのクイズ番組のような効果音が結構な音量で鳴った。 「ぷっ・・」 豪はバレないように含み笑いをした。 辺りからも笑いが聞こえた。それに気分を害したのか、中年男性はムッとしている。 「なんで笑われにゃいかんのだ、ったく・・。んっ?」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加