一章 デアイ

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 夏場特有の寝苦しい日々が続き、豪は自らの不甲斐なさを実感していた。エアコンを購入できないという貧乏・・。格安アパ-トで1K駐車場込み2万5千円。地方ならではの家賃だが、貯金はおろか、今月の給料までの生活費すらギリギリ状態だった。特に無駄使いをしてる訳ではない。自炊してるしギャンブルも風俗も行かない。原因は過去の借金だった。大学生時代の素行が悪かった。外食するし、パチンコや競馬にハマり、負けても風俗に通う・・そんな自由奔放で金の価値も考えなかった、若かりし頃のツケが、今背中に重くのしかかっているのだ。 「社会人なんだから、自分で責任持て。一体いくら借してやってると思うんだ、仕送りはもうしないからな」 (そりゃあ毎月何万も親から借金すれば、財産は無限じゃないのだし、愛想つかされるよな) 豪は自分のだらしなさを自覚した。親に甘えていたと。いや、親だけではなく消費者金融にも甘えていたか。 そんな親からも見放された豪は、だらしなさは打破したが、給料の大半が支払いに消える訳で、エアコンなんて高価なものは手の届かぬ雲のような存在だった。 いつか親に仕送り出来るような立派な社会人になる。そんな目標が豪にはあった。ひと昔前では想像つかない、真面目な意思を今では持っており、日々勤労している。3年目になる調理の仕事。名が知られる弁当屋で、厨房を担当している。初めは包丁の握り方も分からぬ初心者だったが、幾度となく指を切った経験は無駄にはならず、確実に仕事は覚えていた。弁当屋は全て手作りなので、朝の仕込みは想像以上に大変だった。値段は高いが味は絶品というのが巷の店の評判だ。勿論3年しか経っていない若造の豪に任せるほど、親方も甘くない。下手な料理をされて店の人気が落とされては溜まったものではない。豪の仕事はというと、野菜のカットや炊飯、盛り付け、洗い物がメインだ。これでもだいぶ仕事量は増えたほうだった。最近でも親方の教育は厳しく、最初の頃などは罵声を何度浴びせられたか分からない。それでも甘かった自分を磨くには絶好の場であり、絶対にくじけない強い気持ちをバネに頑張ってきた。 今日も朝7時から出勤だった。
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