一章 デアイ

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 店長でも知らないのなら、店関係者では無い・・豪は落胆した。それを見ていた篠田の表情が緩くなり、微笑み混じりで豪に聞いてきた。 「なんだ、豪の彼女か? お前いつ女出来たんだよ??」  篠田はニヤニヤしながら豪の顔を覗きこんだ。 「いや、そんなんじゃないですよ。ちょっと今日 ・・・」 「今日?なんだ、何があったって?」  篠田はこういう話は詮索したがりであり、豪からすると少しウザい・・・。       「いや、篠田さん。何でもないですよ。知らないならいいです、店長どうも。」  長沼は、煙草吸いながら沈黙に戻り、新聞を読み出した。豪の話には興味なしだ。しかしこれでいい。それに引き換え篠田は、しつこく豪を追い詰める。 「なあ、カンダ サヤて 誰だよ。今日きたお客さんか?俺はお前の兄貴分だから、お前に彼女出来んのは嬉しいんだよ、女かまけて仕事打ち込まないようじゃ駄目だがな。」 「ですね・・。」  豪は飯を食べ終わった皆を確認して、皿の片付けを開始した。 「ですねじゃなくて、隠すなよお前。な~気になるじゃないか。」  料理の基礎を教わり、信頼も出来るし、豪にとって本当に兄貴分であった。尊敬もしている。しかししつこい・・。 「ああ、分かりましたよ。じゃあ話しますて!」  出来れば話したく無いが篠田に負けてしまった。いつも豪が話したく無いという話題を聞き出す、ある種の特技。先輩という間柄、逆らえない事が敗因なのだ。豪は渋々と口を開いた。職人であり、仕事中は真剣で近寄り堅い部分もあるのに、いざ仕事終わるとギャップの大きさがあらわになる。そんな篠田を豪は好いていたのだが。  3人居る空間だが、豪の話を聞く態度は様々だった。店長の長沼は、相変わらず新聞に集中しておりまるで聞いていなかった。また若い者のどうでもいい話題が始まったかという感じだ。対称的に篠田は、半ば笑いながら話に食いついている。人の恋話が本当に好きなようだ。そして藤原 鈴は売上伝票を計算していた。一日の利益を算出しているのだが、お世辞にもこの店が景気が良いとは言えない。社会の不況は隅々まで侵食し、料理業界も対象外ではない。近隣で倒産の相次ぐ様を客観的に見れる事は出来ない。企業は違えど、自分たちも危険だという認識はいやでも生まれてしまう。
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