一章 デアイ

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老舗で常連が多く、近隣の会社に毎日弁当を配達という、利益を出すには心強い契約も結んでいる。だが、それでも先は分からない。鈴は慣れた手つきで、部屋の隅にあるPCのキ-ボ-ドを叩いている。看板娘というだけあって可愛いく、接客時は常に笑顔を振りまいている。彼女目的の常連もいるかもしれないが、残念ながら彼氏もち。篠田の話しでは、イケメンで年上の男性らしい。  豪は話し終えた。ほぼ聞いてたのは好奇心旺盛な篠田のみだった。 「しかし面識も無いなら、店か何処かでお前を見かけて一目惚れしたかなんかじゃないのか?カンダ サヤて名前は知らないな。最後に会えて、さよならて言葉はちょっと気掛かりだよな。なんか別れる予感を受けてしまうな。名前だけじゃなくて携帯番号聞いてりゃよかったな。連絡取れないと今度いつ会えるか分からないから。」  的を得た篠田の答えだった。話を聞く感じでは、面白半分のように見えたが、そこは先輩としての責務だろう。いつも親しむ後輩の悩み事には紳士に対応する。肝心な所では洒落も無くして、真面目に考えてくれる。豪は篠田のそんな部分が頼もしく思えた。 「腑に落ちないが、好きならまた会い来ると思うぞ。片想いでずっと想い寄せてたとすれば、小さな問題があったとしても、一回会っただけじゃあ収まらないだろう。」 「そうですかね?こんな自分のどこが良いのか分からないですけど・・」 「まあ女の趣味は分からんからな。でもお前は料理はまだまだだが、ルックスは悪くないからな」  篠田はニヤリとしてそう言うと、更に続けた。 「その最後に会えて・・というのがな。俺の言う小さな問題てのは、実は彼氏もちとか明日引越しするとかだよ。勝手に好きな男性ができたって、そりゃあ彼氏さんに悪いから諦める。そう仮定すると発言もつじつま合うだろ?引越していう線も、諦めなければならないような地方に行くならば、結果的に諦めるという事になるだろう。だがこれらは自分の行動や意思でどうにかなる問題だろ?彼氏傷つけて豪に行けば良いし、引越しも事情は知らんが辞める事は出来る。な?」 「小さな問題でも無いと思いますが・・」 「じゃあ絶対さよならしなきゃならないデカい問題だ。俺の考えだと・・病気だな。死期が近いからだ。」
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