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私は彼の顔を窺(うかが)うと、曇らせた表情をしていて少し不安になった。
ゆっくり彼は口を開く。
「今、美春と話していて自分が少し見えた。僕は君を…」
大ちゃんは言葉を詰まらせた。
余計に不安が大きくなる。
彼を信じているけど、
私の言葉で傷つけてないか怖くなった。
『君を』…何?
そう急(せ)かすように問いつめたかったけど、それも私はできないで、固まって、謝る準備をしていた。
きっと私、傷つけた言葉を言ったんだ…別れるなんて言われたらどうしよう…
心の中は調子に乗って『羨ましい』なんて言ってしまったことの後悔でいっぱいだった。
彼は息を吸って勢いをつけて声を出す。
「美春、僕は君を…僕を救ってくれた君を守りたいよ。今は具体的に思いつかないけど、君を守れる道へ進みたい。」
私は予想もしていなかった言葉に驚きを隠すことができなかった。
初めて、私はそんな言葉を言ってもらった。
嬉しいはずなのに、
何がなんだかわからなくなって私は
「…救ったなんて、私は何もたいしたことはしてないよ。」
と偉そうに言ってしまう。そんなこと言うつもりも無かったのに。
大ちゃんはとても真剣な瞳を私に向けて、
「違う。君は感じてないかもしれないけど、僕は救われたんだ。何度もね。」
「私のおせっかいで?嫌みで言ってるでしょ?」
冗談っぽく返すのが精一杯だった。嬉しくて、でも恥ずかしくて、
それを大ちゃんに知られたくなくて、
おどけた表情を作ったけど、顔と耳から火が出そうなくらい熱かった。
きっと私、赤くなってる。
そう想うと余計に恥ずかしくなったが、
私を直視しながら、彼は続けた。
「嫌みなんかじゃない。僕は真剣に言ってるんだ。」
「私…大ちゃんを救ったの?どうやって?」
不思議でたまらなかった。
救われていたのは私なのに。
いつも不器用で、口ベタな彼なのに、
一生懸命にはっきりと私の質問に答えてくれた。
「理解だよ。」
そう言う彼の横顔が
私は目から焼き付いて離れない。
私達、同じことを想っていたんだね。
……大ちゃん。
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