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目の前で二人の男女が手を繋いで幸せそうに笑っていた。女は頬を淡いピンク色に染め、男に寄り添っていた。これはなんの映像なのだろう、どこかで見たことがあるような懐かしい感じがしてならない。 何もすることがなかったのでぼうっと眺めていると顔に温かい水滴が伝い、落ちていった。どこから?自分の瞳から流れた涙だった。何故泣いているのだろうか、ゴシゴシと涙を拭ってみたが次から次へと溢れでてくる。 そうして暫くしていたら段々と映像が遠ざかっていった。小さくなっていく映像を見て何故だか僕は焦りを感じ、 『待って』 と声をあげた。虚しく消えていく声に同調したように映像も消えていった。そこで気付いた、あの映像は僕自身のものだ。懐かしく感じたのは思い出だったからなのかもしれない。待ってと声をかけたのはもう二度と来ない日だったからかもしれない。彼女は死んだのだ、ここから消えてしまった。 映像が消えて真っ暗になったここで僕はひとしきり涙を流した。涙は留まることを知らなかったようだ。分かってしまったのだ、もう、あの日は、戻らないということを。
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