弐【逢】

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「あの研究所で見ただろう?過去に時田で何が行われていたか」  僕は頷いた。  あまり思い出したくもない、悲惨な過去だ。  僕には難しいことはわからなかったが、わざと頭に傷を作ることによって、ある機能を成長させたのだとかなんとかいうことが書いてあったはず。 「四季は実験の途中で姉に未確認の不法ドラッグをやられている。それで必要な神経まで破壊されて使い物にならなくなり、実験は中断した」  つまり、未完成の中途半端な状態で不安定な脳を、そのまま抱えて生きて来たということ。 「勿論俺が多少の処置は施している。生活できるようにケアはしてきたつもりだ」  けれど、とつぶやいて、天国さんはふと目を伏せた。 「成長と共に脳も変化する。傷痕や薬の後遺症で不安定な状態は続いている。いつまでもあの二人を自由にさせてやれない。何より俺は…」  まるでその言葉が、僕の心を直に刺しているようで。 「四季の心を救えなかった」  静けさが、痛かった。 「ちょっと覚悟したほうがいいと思うぜ」
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