参【死体】

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 開かれた扉の向こう。  僕は唇を噛んで、涙が零れそうになるのを堪えた。  機械音が響いている。 「大分調子が良くなったほうだ。最近までは起きてるときも呼吸がうまく出来なかったくらいだからな」  天国さんの淡々とした口調に変な違和感を覚えつつ、僕は思い出したように瞬きを繰り返した。  あれから二ヶ月くらいは経っただろうか。  絶対零度の姿を見るのは実に久しぶりだった。  ベッドに横たえてはコードがさせないからか、歯医者の診察椅子みたいな物に体を預けている。  首の後ろから二本、こめかみから二本、コードが出ていて、耳にも何か付けられている。  口元は人工呼吸器で覆われていて、その瞳は固く閉じられたままだ。 「君、四季を起こしてやってくれ」  研究所の職員らしき人にそう言って、天国さんは絶対零度の人工呼吸器を操作する。  職員の男性がパソコンに何かを入力して、天国さんが呼吸器を外すと、ゆっくりと絶対零度の目が開いた。 「ん…ゆめ、じ」  零れた声は、懐かしい響きを持っていた。 「四季、調子はどうだ?」
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