壱【街】

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「…うぷ」 「……何ですか、うぷって」 「…………酔った」 「やっぱりぃぃっ!」  そんな会話が繰り広げられたのは、確か今から二十分程前だっただろうか。  僕と奏者は、サービスエリアのお土産コーナーを、何を買うでもなく眺めながら、絶対悪を待っていた。  思えば何時間か前にうっかり「ついていく」何て言ってしまったのが運のつきだったのかもしれない。  僕たちは、曲屋第一研究所を出て、関西へ向かう高速道路をひた走っていた。  電車じゃ退廃世界の情報網に負けるから、とはいうが、常に体調不良の絶対悪には酷な長旅じゃないだろうか。  まあ、運転手は僕なんだけど。 「…あんなとこに車ほったらかして来て、良かったの?」  僕は何となく沈黙が嫌で、どうでもいいようなことを聞いた。 「ああ、いいのいいの。あれ俺のじゃねぇし。銀色に借りてたやつ」 「あ、そうなんだ…」  あんな廃墟に車をほったらかしにされた銀色さんを、少し哀れに思った。  ちなみに移動は僕の車だ。助手席で絶対悪がナビをしてくれている。
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