読書灯

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会社の後輩AOちゃんから聞いた話。 暑い季節の出来事だったらしい。 AOちゃんが中学生だった頃のある日、彼は海辺のマンションの12階に住んでいるのだが、塾からの帰りエレベーターを降り家に向かっている時、お向かいのマンションの階段を真っ赤な薔薇の花束を抱えて登っていく若い女性を見かけたらしい。 その日は別段何事も無く眠りについた。 翌朝、なんだか表が騒がしいので目を覚ました。 その時には、家の中には既に誰も居らず、家人を探し玄関ドアを開けると玄関前の通路の一角にAOちゃんの家族も含めた人だかりが出来ているのに気付いた。 どうしたのか気になりAOちゃんは母親の傍に近づいていった。 「あんたは見ちゃ駄目!」 そんな感じで結局AOちゃんはその光景を見せてはもらえなかった。 それから数日AOちゃんは先日の出来事が気になり、なかなか寝付けない日々を送っていた。 学校の成績も悪くは無く文学少年だったAOちゃんは寝苦しい夜は決まって文庫本を枕元に用意し、眠たくなるまで本を読む事が習慣となっていた。例の出来事が有ってからは布団に入ってから直ぐには眠れない日々が続いている。少しずつ睡眠不足気味になってきていた。AOちゃんは以前から疲れていたり、睡眠不足の状態になると金縛りにあうらしい。 その日の夜も相変わらず眠れず、買ってきたばかりの本を読んでいた。買う時の期待に反して案外面白い本だった。そろそろ寝なきゃいけないと思い、一度ベッド備付の読書灯を消した。しかし、本が面白い事、また残りページがもうわずかしか無い事も手伝い、再び読書灯を灯し残りのページを読みきった。 連日の夜更かしのせいかとても疲れていた。予感めいたものは有ったのだが案の定うつらうつらし始めた時、金縛りに襲われてしまった。 真っ暗闇の中、自由に動かぬ体で何処にも逃げる事が出来ない。そんな意識の中、体のあちこちで感じる、触られている。そんな感覚に恐怖が絶頂に高まった頃、右手がやっと読書灯に届いた。 筈だった。 しかし、そこに在ったのは細く冷たい女の人の手だった。 もうだめだと覚悟したその時、AOちゃんの部屋のドアが開き父親が入ってきた。 「KATU、うなされていたが、大丈夫か?」 その瞬間冷たい手は何処かに消え失せAOちゃんは読書灯を灯した。 先日の朝の騒ぎは、お向かいのマンションの屋上から飛び降りた女性が、散らばった赤い花びらの中で真っ赤に
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