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だって太一は一言も俺に『好き』なんて言葉は言ってくれてないんだから…。
―sideT
「太一の負けー」
「チッ…んだよ…早く言えよ」
飄々と笑う悪友に舌打ちが漏れる。
なんて事無い、暇潰しの賭けに負けただけ…
自分に言い聞かせながらもイライラとした口調になってしまえば悪友…唯はニンマリと唇を吊り上げた。
「そーだねえ…じゃーさー隣のクラスの田中って子、落としてきてよ」
「は?」
唯はクラスの出席名簿を見ながら適当に見つけた名前を上げた。
田中って誰だよ…
嫌そうに眉を寄せれば唯はおや?っと首を傾げてみせる。
「あれー?約束やぶんの?賭けに負けたら言うこときくってさー…」
「分かった分かった。落としゃいいんだろ!」
勢い良く立ち上がって隣のクラスへ向かうと後ろから楽しげな笑い声が聞こえた。
くそう…何が楽しくて男なんて…
そう、うちは男子校だ。
約束を破れば後でネチネチと面倒な事を言われそうだし…コクってOKが出ればすぐ振ってやる…
隣のクラスの奴を適当に呼び止めて「田中ってどいつ」と聞けば、青ざめたそいつは教室へと飛び込んで一人の男の前で止まった。
顔をよく見ればなんて事ない平凡…。田中は俺の顔を見れば真っ青になって、段々と眉尻が情けないほど下がって来ている。
暫くフリーズして動く事が無い事に痺れを切らして「オイ」と声を掛ければハッとしたように目を丸くしてそいつは俺の側までやってきた。近くで見た田中の目は潤んでいてやけに色っぽく見えてしまって、そんな事を思ってしまった自分を叱咤するように屋上へ足を向ければ田中は俺の数歩後ろを駆け足でついてきた。
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