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昼になって屋上へ向かう。
田中は弁当らしい。冷凍食品ではない、きちんとした弁当は何だか田中そのものの様に見えた。
いつ振ろうか…そんな事を考えていたら田中は弁当を半分食べた所で箸を置いた。
「田中、お前そんだけしか食わないのかよ?」
「少食なんだ…」
「ふーん…残すなら俺がもらう」
そう言って弁当箱をひったくった。毎日パンってのも飽きてきてたし、何より勿体無い…。
田中は控え目にどうぞと呟いて俯いたのを尻目に俺は弁当に手を伸ばした。
一口食べて驚く…ホントに上手くて…。こんなの残すなんてバチ当たりめ…
「…上手いなこれ…母親か?」
残すなと文句を言ってやろうと思って聞いたのに、母親はいないから自分で作っていると何て事もないように告げる田中に口を閉じた。
「…田中料理上手いんだな」
俺も流石にそこまで不謹慎な事も言えず、素直に感想を述べたら田中はハニカンだ様に小さく笑った。
初めてみた笑顔に目を奪われる。こんな綺麗に笑えるのかと思ってしまったのが気まずくてさっさと弁当を食べ始めた。
「…田中…下の名前何?」
ホントは田中、別れようと言うはずだった言葉。けど咄嗟にそんな事を口走っていた…
アホか俺は…まがいにも告白した相手の名前を知らないなんて本気じゃないのバレバレじゃないか…それは田中も同じらしく眉を寄せて、それでもその事には触れずに小さく「蘭です」と呟いた。
小さくて聞こえなくて聞き返せば思いきり頬を膨らませて不機嫌丸出しのカワイイ顔をしたものだからついつい吹き出してしまった。すると更に頬がプクリと膨らんでしまって…別に名前をバカにしたわけではなかったんだけど…ここまで素直に感情を出してくるやつは初めてで、手放したくない…不意に思ってしまった…
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