1100人が本棚に入れています
本棚に追加
それでもまだ食い下がる俺は上総の腕を引っ張って泉へと連れてきた。
どんな小さな傷だって痛いんだ…それに痕だって残るかもしれない。上総の手は綺麗だから傷痕なんて似合わないし…
泉の淵まで来ると、漸く諦めた上総の手に泉の水をつける。スッと治っていく傷に安堵の息を吐けば上総は難しげに眉を寄せて徐に俺の手を掴んで泉に浸けた。
「何やってるの上総?」
「…これは…消えないんだな…」
「…?ぁ…」
上総が見つめる先には十字架の痕…
「ぅ…ん。けど大丈夫だよ?マナが傷は治してくれたからもう痛くないし」
気にしなくて大丈夫なんだって伝える為に笑顔を向ければ上総はどこか悲しげに笑う…
そんな顔で笑わないで…上総にそんな笑顔は似合わない…
それからも、やっぱり傷を作ってまで上総が会いに来てくれる日々が続いたある日。
「町に…行ってみないか?」
上総の言葉に目を丸くするとマナが表情を険しくした。
「町で俺の信頼はあついし、俺といれば安全だ」
上総の言葉に思わず尻尾が揺れる。正直に言えば行きたい、凄く…
伺うようにマナを見遣れば、マナは不機嫌そうに表情を歪めながらも止めはしなかった。
今まで俺がされてきた事があるから、心配してるんだと思う…けど止めないのは、ホントは上総を信頼してるから。
「いいの?」
「ああ、李斗の事仲間に話をしたら会ってみたいとも言ってたしな。それに明日は町で祭りがある。一緒に行こう?…いいよなマナ」
「…今度李斗に傷一つでもつけてみろ…二度と日の目を見れなくしてやる」
「させないさ」
上総の言葉に思わず心が弾んだ。
俺にも人間の友達ができるかもしれない…
最初のコメントを投稿しよう!