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「……あのな上総、エレナの事だけど…」
side―R―
―チャプン…
静かな水音にゆっくりと目を開くと、俺は泉の中に居た。
何があったんだとボンヤリする頭で考えて、撃たれたんだと思い出した瞬間に心臓がズキズキと傷んだ。思わず胸元に手を添えて蹲ると体が泉から抱き上げられて目の前には安堵したような表情のマナ。
「目が覚めたのか…良かった…。まだどこか痛むのか?」
「…、……」
「李斗…?」
大丈夫だと、ありがとうと伝えようとした俺の口からは音が出なくて。困惑しているとマナの表情がどんどん悲しげに歪んでいった。
「李斗、ゆっくりでいいからね。私の言う通りにしてごらん…」
マナは俺の手を自分の胸に当てさせると、ゆっくり頭の中でしゃべれと言った。
『…マナ…』
「そう…それでいい…。」
『俺…何で…声が出ないの?』
「……、大きな怪我をしたから…少し心が驚いてしまったんだよ」
『そっか…』
マナの言葉にあまり落ち込んでいない自分がいた。
だって…俺の言葉なんて…やっぱり誰も聞いてくれないんだから…
『ねえマナ…お願いがあるんだ…』
「ん?」
『上総を…助けたいんだ…』
マナは俺の言葉を静かに聞いて、そうかとだけ呟いた。いつもみたいに怒ってるわけでもなく…静かに…、それから優しく微笑んでくれた。
「じゃあ私が手伝ってあげよう…でも一つだけ条件がある…」
『何?もう人間には近づいちゃダメって?』
「…そんな事はまだ言ってないだろう?」
俺がいつものマナの言葉を真似して笑って見せたら、マナは悲しげに眉を寄せてから小さく笑って俺の頭を撫でてくれた。
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