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ずっとこんな顔をしていたのかと…今更マナの悲しい笑顔の意味に気づいて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
それでもマナは優しく大丈夫だと抱きしめてくれたけど…
日に日に強くなっていく思い…上総に会いたい…
俺はマナの目を盗んで住み慣れた泉へと戻って来た。
苦しいくらいに痛み始める胸を抑えて、村へと続く道を歩く。
上総はもう俺の事なんて覚えてないかもしれない…会ったって初めて会った時みたいに攻撃されちゃうかもしれない…
けど…一目だけ…
「李斗…」
風に乗って聞こえた声にドキリと心臓が大きく鳴った。
聞き間違いだろうか…上総の声が聞こえた気がして…。
気づいたら走り出していた。怖いなんて感情は無くて、勝手に足が動く…そして…
「っ!?」
見事木の枝に足をつまづかせて転びそうになり、慌てて体勢を立て直す。
「李…斗…」
今度はハッキリと耳に届いた声に体が固まる。
ジャリっと…土を蹴る音が聞こえて次の瞬間には温かい何かに包まれていた。
「李斗…李斗…」
酷く弱々しい上総の声…
こんな声は初めて聞いた。
久しぶりの上総の匂いに、胸がキュっと苦しくなって泣きそうになる…実際に涙がながれる事は無かったけれど…
予想に反した上総の行動に、戸惑いながらも顔を上げれば俺なんかよりも今にも泣きそうな上総の顔。
―泣かないで…
声の出ない唇を動かして上総の頬に触れようとすれば体を固くした上総に気づいて伸ばした手を下ろそうとした。
けど、その手は途中で掴まれて上総の頬へと押し当てられる。遠慮がちにサラリと撫でたら上総は更に泣きそうに表情を歪めた。
「李斗…全部…全部聞いたんだ、あの時の事…」
「…」
「ごめん…謝ったって許される事じゃないのは分かってる…けどごめん…。信じてやれなくて、酷い事を言った…。李斗があんな事をする奴じゃないの分かってたのに…」
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