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恐怖の告白から二日目の昼…
「田中…お前そんだけしか食わないのかよ」
食べ始めて半分で早々に蓋を閉めた僕に太一が顔をしかめる。
食べないんじゃない。喉を通らないんだ…だけどとりあえず
「小食なんだ」
と言っておいた…。僕の言葉にふーんと興味なさげに相槌を打った太一は不意に手を差し出してくる。
何かと思って顔を上げたら弁当箱を奪われた。
「残すなら俺がもらう」
勿体無いと告げた太一を見遣って小さくどうぞと呟いた。
「……上手いなこれ…母親か?」
弁当を食べて目を丸くした太一の言葉に弛く首を振る。
「…僕が…作ってます。うち母親いないんで…」
そう告げると太一は一瞬ばつが悪そうに眉を寄せた。
別に気にする様な事でもないのに…。うちの母親は僕が産まれてすぐ亡くなってしまっていて、だから小さな頃から働く父さんに代わって僕が家事をこなしていたんだけど…
「…田中料理上手いんだな…」
一応気を遣ったんであろう太一がほんの一瞬表情を緩めたのを見て、不覚にも胸が高鳴ってしまった。
「…ありがとう…」
照れた様に小さく笑ったら太一が一瞬言葉を詰まらせて弁当に視線を落としたのを見て、俺そんな変な顔をしたかと心配になる…
って言っても太一の前じゃ誰の顔も『変』の部類にはいるかもしれないけど…
「田中…下の名前何?」
それも知らずに告白したのかと呆れたけど…そんな事言えないから正直に答えた。
「蘭です…」
「…は?」
「……蘭…です。花の蘭と同じ字で…」
そんなビックリした顔をしなくても良いと思う…。自分でも不釣り合いな名前だって分かってるんだ。
そんな考えが顔に出ていたのか太一は盛大に吹き出すと腹を抱えて笑い始めた。
「ぶっ…アハハ!良い名前だよ蘭って」
「ひどい…でも笑って…」
「だってお前、すっげえ膨れっ面っ」
どうやら名前のギャップに笑っているわけでは無さそうで…
むしろ表情にでていたのかと慌てて手で顔を覆うと「今更だろ」と笑われた…
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