【胡蝶の夢】

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 土で汚れた彼女の足を、母親が洗う。彼女はただ押し黙って、その様子を見つめていた。  夢を見ていた。楽しい夢を。家族には心配をかけてしまったものの、童心に返ったようだった。夢の中、世界は綺麗だった。月の光を浴びていたから、というだけではない。無垢な目で見ていたから、尚更、綺麗に見えたのだ。  足を洗ってもらっていると、祖母が起き出してきて、彼女の傍らに立った。虚ろな目で振り仰ぐと、祖母は微笑んで、彼女の頭を撫でる。お帰り、と祖母は言った。彼女はこくりと頷いた。   了
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