【彼岸花】

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 鴉が鳴いた。墓地の片隅に植わっている柿の木の梢に、それは止まっているようだ。辺りは既に暮れなずみ、夕闇が落ち始めているので視界は悪かったが、一番手前の墓には生花が供えられていて、新仏の初彼岸の墓参りを終えたあとなのだと知れた。鴉は供えられた果物やら菓子やらを狙っているのだ。  夕暮れの墓地は閑散としている。夏子はしばし立ち止まり、農道から墓地を見ていた。この墓地の近くには寺があったが、今は住職がいない。同じ宗派の余所の寺に管理を頼んでいるらしいが、だいぶ荒れている。墓地も盆と彼岸以外には清掃をしないから、普段は雑草だらけになっている。そんな場所であるから、夏子は下校のときに、この農道を通ることを厭うた。寺と墓地が見えるからである。今は秋彼岸の最中だから、尚更怖い。  農道を少し行けば、住宅地に出られる。住宅地には街灯があるが、農道の周りは田んぼばかりで、夜になると真っ暗になる。  夏子は墓地を見ないようにしながら、ランドセルを背負い直して、早足で歩き出す。住宅地までは三十メートルあるかないかの距離だ。宵闇が近い。
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