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それというのも、夏子の通う小学校では、地域の秋祭りのお囃子を児童にやらせる。夏子は秋祭りに行くのは好きだったものの、太鼓叩いて横笛吹いては苦手なのだ。けれども、お囃子は山車を引くのになくてはならないから、やりたくないとは言えない。嫌々ながら練習に参加していると、帰りが遅くなってしまう。いつもなら、野良仕事から上がった祖父が迎えに来るが、腰を痛めてしまったとかで、ここ数日は一人きりだ。
こういうときほど、夏子は友達の多い同級生を羨んだことはない。内弁慶の夏子は、家族の前でこそお転婆だったけれども、学校では物静かでおとなしく、友達付き合いは多くない。その数少ない友達に限って、夏子とは帰宅の方向が違うものだから、寂しい思いをせねばならない。一緒に帰ろうと言い出せればいいのだが、もじもじと躊躇っている間に、同じ方向へ帰る同級生はいなくなってしまうのが常だった。
彼岸は、仏が還ってくるという。彼岸の中日ごろは、本来なら農繁期であるのだが、農家の多くは休耕してしまって、野良仕事の人影はない。だけれど、色づき始めた田んぼのあちこちに、案山子がぼんやりと立っているから、夕暮れの農道は一際怖い。
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