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しばし無言で手当てをしていたが、未龍(ウェイロン)はふと顔を上げ、男に話しかける。
「そういえば、お前の名はなんというのだ?」
「……」
「言いたくないか。まぁそれならそれでいいが、何と呼べばいい?」
じっと見つめられ、気まずくなって顔を背ける。
「……好きにしろ」
「じゃあ、ポチ」
「はぁっ!?」
「冗談だ」
未龍はそう言って、ニヤリと口の端をつり上げる。
先程の太烏との会話でもそうだったが、どうも未龍はとんでもない冗談を言うのが好きなようだ。面倒な性格だ。
「そうだな…………じゃあ、月(ユエ)でどうだ?」
「月?」
「そうだ。お前の瞳は、満月の様で美しい」
そう言うと未龍は金色の瞳をじっと見つめ、微笑む。
「月(ユエ)、か……」
「ああ。私は未龍(ウェイロン)。怪我が癒えるまでゆっくりしていくと良い」
「……ありがたい」
そして男――月と未龍は微笑みを交わした。
暗い闇夜は静かに明けていく。
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