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たまに軽やかな鼻歌を交えながら、鍋の中で煮え立つ液体をゆっくりと焦げつかない程度に回す彼女。
その可愛らしい五指は、鍋の中でトロトロになった黒色の液体と対象的に光を纏うように白く、スラリと伸びて何とも素敵である。彼女の好きな部位は、と聞かれたら確実にベストスリーには入る。
おっ、どうやら次の動作に入るようだ。彼女は脇に置いてあった小さな紙袋から、全く同じ茶色の小瓶を三つ取り出した。
なになに、『恋するマムシ! ギンギン(以下略)』。こいつ、馬鹿じゃね……うん。てか何処で買ってきたんだろ……。
「フフ、ダーリンきっと喜ぶ――」
その細い手首をガッチリと握り企みを阻止すると、彼女は夜中にゲームをしていることがバレた子供のような表情になり、俺たちはジッと目を合わせ続けた。
「これはなんだ?」
耐え切れなくなり沈黙を破る。自分で聞いても冷静な声。ありゃ、そのビー玉のような目を、潤ませる液体は何ですかな。
「だって……だって!」
「わかった、ごめんな」
そう言って彼女を抱き寄せる。チョコレートの甘い匂いとシャンプーの爽やかな匂いが、今年こそは、今年こそは、と背中を押してくれる気がした。
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