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樹は高校の同級生だった。
古いが風情のある写真館の息子で、高校生とは思えないほど落ち着いていた。
ほかの男子が校庭を走り回っているときも、写真部の部室でカメラをいじったり、図書室で写真集をめくったりしていた。
当然、多くの女子から「オタクっぽい」と敬遠されていた。樹の撮る写真の美しさも、それを褒めたときに見せるはにかんだ笑顔も、ほとんど知られていなかったのだと思う。私から告白して付き合い始めたときは、ひどい言われようをしたものだ。
高校を卒業し、大学に進学した私と写真の専門学校に入った樹は、一緒に上京した。二年後、樹は有名なカメラマンのアシスタントになり、四年後に私が商社に就職したときには、既に忙しく働いていた。
年々生活はすれ違い、会う回数も減っていったけれど、私も仕事が面白くなっていったので気にならなかった。ただ漠然と、いつか樹と結婚し、家族をつくるものだと思っていた。
だから、樹が「戦場カメラマンになる」と言い出したときは驚いた。
「どうして、自分から死にに行くようなことしなきゃならないの!」
「写真なんて、どこでも何でも、たくさん撮れるでしょう!」
「残される私の気持ちも考えてよ!」
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