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鼻の奥がツンとした。
「じゃあ、ママ、行くから」
「えっ、もう行っちゃうの?」
「うん。翼、はしゃぎすぎないようにね」
私はそう言うと、逃げるように病室を出た。目の端に翼の寂しそうな表情が見えたけれど、慰める余裕はなかった。
長い廊下、混んだエレベーター。私は病院を出るまでこらえることができずに、待合室の隅にしゃがみこんだ。点滴を吊ったキャスター付きの金属スタンドをごろごろ押しながら、パジャマ姿の男性が通り過ぎていく。
目の前にスッと、綺麗に折り目の付いたハンカチが差し出された。顔を上げると、大木が私を覗きこんでいる。
「大丈夫じゃないじゃないですか」
張りつめていた糸がぷちんと切れて、大きな塊の涙があふれた。
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