七夕の雨

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 大木と病院前のベンチに座り、じっとりと重い梅雨の風に吹かれた。  もうすぐ七月だ。向かいの小学校で、子供たちが笹に短冊を吊るしているのが見えた。願いを乗せた色とりどりの短冊が、楽しそうに揺れている。  翼にだって同じように、たくさんの願いがあるはずなのに。 「どうして、翼だけが」  思わず、呟いてしまった。 「……ごめんなさい。そんなこと言っても、どうにもならないのに」  大木は一言「いえ」と言った。それ以上、慰めも励ましもしない。  沈黙の中、無慈悲で規則的な振動音が響いてくる。私は渋々、膝の上のバッグから携帯を取り出した。会社からだ。 「はい、中村です」 『主任! 今、どこですか! 三時からの商談……』 「誰?」 『あ、すみません、安田です! 三時から……』 「二時五十分には帰るわよ。資料はフォルダにまとめてあるから、人数分用意しておいて」 入社して三ヶ月が経つのに相変わらず落ち着きのない新入社員が「フォルダ、フォルダ」とわめくのを無視して、電話を切った。 「ご迷惑をおかけしました。行きます」 「ええ。お気をつけて」  重い腰を上げ大木を見下ろして、ようやく気付く。
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