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ホテルの自動ドアを抜け、そのままエレベーターへと向かう。
彼に教えてもらった部屋のある8階のボタンを押した。
エレベーターを降りて、部屋の番号を見ながら進んでいった。
807。
ドアをノックすると、暫くして彼が顔を見せた。
『久しぶりだな』
彼の口調はいつもと何も変わらない。
『うん、久しぶりだね』
そう言ったアタシを彼が抱きしめてきた。
彼のスーツから微かに女物の香水の甘い匂いがした。
『アタシね、今日を最後にしようと思って此処に来たの』
彼はアタシの言葉を聞いて身体を離すとちょっと驚いた顔をして、すぐに笑った。
『そっか、残念だな。俺は真理との付き合い続けたかったけどな』
そう言った彼の傍に寄りアタシはその唇に自分の唇を押し当てた。
『今日、最後にアタシを抱いてくれる?
もう二度と貴方と会えないから……』
離れた唇が再び触れ合いアタシ達はベッドに倒れ込んだ。
彼の体温を直に感じ、彼の唇を全身に感じ、やはりアタシはこの男がたまらなく好きなんだと改めて思った。
『雅人……好きよ』
『真理、俺も好きだよ』
アタシの目から涙が零れる。
初めて彼が口にしてくれた言葉。
それは今日が最後のアタシへの優しい嘘……。
もっとその言葉を聞きたかった。
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