~序詩~矛盾

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~序詩~矛盾

肉がうねる。 骨が軋む。 臓物は生を挽歌し、 脳は死して死するを理解する。 嗚呼、そうあれかし 嗚呼、そうあれかし 一切れの肉を口に含めば鉄の味 人切れの肉を口に含めば疽の味 其の刻は永遠に。 其の刻は瞬時に。 其の刻は永劫に。 其の刻は回帰に。  〝何時までも何時までも〟 其処は余りにも暗かった。 多くの生物が夢をみる丑の刻。灯りをつけず、灯りはつかずその少女は眠りもせずに死にもの狂で〝其〟を補喰し続けていた。 確かにその家は今、暗黒が謳歌為ているが決して町外れにあるわけではない。むしろ隣に幾つもの家が立ち並ぶ一般住宅である。一つ一つの家に車の常備は当たり前の様に立ち並び、この国でも恵まれている人間の巣何処なのだろう。 それこそ先刻、回りの家に灯りが点っていた刻には限り無くその家が場違いも甚だしい程に。 が── 其がどうしたと言うのだ。例え一刻の相違も刻が進めば移り変わる。 今のこの様の様に、だ。 彼等は、気付かない。気付こうとしない。 其は我が道を踏み外さんとする故か 昌世を恋しく思う故か 果てまでは歯止めが効かなくなる故か 我が理解出来ない領域がすぐ隣に在ることを。 「だから?そんなの……私には関係ない………」 腐敗臭が場所狭しと充満しつづける彼女の家。 少し前までは家族団欒のそのテーブルも今ではみる影もない。当然だ。そのテーブルに内臓をぶちまけた一人の死体から如何にして家族団欒の影を見い出せと言うのか。 〝其〟を補喰する彼女から如何にして見い出せと言うのか。 彼女の持つナイフが皮膚を切り取り、赤味の指した毒毒しい肉をそのフォークで突き刺す。其の手に震えはなく有るのは狂喜のみか。 躊躇いなくその肉を口に頬張るその様は悦に綻んでいる。それはこの世で見つけた最高の幸せの様でもある。 なんで解らないかなぁ。違うよ。これは私にとって正真正銘の幸せなの……! そして新たに肝臓を鷲掴みして一気に口の中に流し込む。筋肉とまた一味も二味も違う感触と味が広がった。 腐りに腐ったその魔の食卓は終わる事を知らない── 「筈だったのに……なによ。あんた。」 狂気の城の門が吹き飛んだ。ドアを蹴り開けたその人間は常軌を逸したその家に思わず一歩後退る。 男か女か分からないその風貌。フードを這おい、口許は布で覆われている。目元のみが露され、その鋭い眼光からは把握しきれない程の怒りがあった。image=91266825.jpg
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