9人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「なんだ。後退る位なら開けなければ良かったのに。
……いや、そもそも来なければよかったんだよ。負け犬」
「!!」
その腐った家の屋根の上、背に月の光を携えて口許を血に塗らし、深紅の死神がそこにいる。
紛れもなく先程人肉を補喰していた彼女だ。
「お前……」
「遅いよ。遅すぎる。気付くのが。私のことも。貴方のことも。全部。………全部」
其を聞くとフードの人物は全てを悟り、自覚し、更にその眼に力が、決意が籠る。握り拳が自らの皮膚を、血管を、肉をえぐるかの様。フードから彼女に放つ殺気は尋常ではない。常人なら此だけで失禁しながら逃げ出すこと間違いない。
そう、まるでそれは──
「ふふ、鬼の様。
なんて醜い。還りなさい。おとなしく背を向ければ楽にしてあげる。一瞬で」
「それで。お前に背を向けるとでも思っているのか?」
「全然。貴方の馬鹿さなんてずっと前からわかってるわ。」
「ああ。そうかい」
もう会話することはないとでも言う様にフードの人物はそのフードから刀を取り出す。
深夜にしてその月光に煌めく様は妖刀か魔刀か。
『罹蒐靉光』
魔に堕ちし人が鍛えし妖刀、その力を──
「今此処に……」
爆ぜた。フードの人物が立ちし場所は軽いクレーターを作り飛翔する。真っ直ぐに彼女へ。
居相の型でその刀を構え先端ギリギリの範囲で一気に刀を振り抜いた。
「ッ!」
己の予想よりも早き抜刀に体がついていかない。其の妖刀は異彩の気を放ち少女の体をみぞおちから二つに切り裂いた。
噴き出す赤い血を浴びながら次の攻撃へと移る。
わかっている。こいつはこの程度では死なないと。
その飛翔から屋根の上に確りと立ち、二つに別れた彼女に追撃を下す。その刀は少女の脳天を捉え、一気に振り下ろした。
「あああああ!!!」
ぐしゃと軽快な音をたてて彼女の頭は分断される。血しぶきと一緒に脳漿が屋根を汚した。
絶命。
そう呼ぶには余りにも凄まじい惨状だ。しかしこれ位やらなければ彼女が死ななかったのも事実。
「はぁ……はぁ……。んぐ、はぁ……。死ね。この世から、心の中から」
そう告げるとフードの人物は今までの風貌が嘘の様に尻餅をつく。息は荒く、膝は笑っている。暫くは指一つ動かしたくなかった。誰にも干渉されたくなかった。
只只。そして泣いた。
己の無力さに。彼女を殺せたことに。もう全てが全ての意味で終わってしまった事に。
最初のコメントを投稿しよう!