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筌蹄訃告
『──して、警察は事件と事故、両方の視点から捜査を続けています。………次はお天気です。宮本さん、お願いします』
今日もまた、生真面目そうなアナウンサーがテンポよく朝のニュースを進めていく。
グレーのスーツをしわなく着こなし、その視線はカメラから外れない。どちらかと言えばぽっちゃりとした顔付きだがその顔からは笑っている表情など想像出来ない程厳格だ。
変わらないコーナーに変わりゆく情報、無駄なコーナーだと思っていても見てしまうのは性故か。
朝は時間がない。そんな中テレビが充実するのも困りものだ。
それは普通の朝模様。
ただ、リビングに誰もいない事を除けば。
虚しいかな誰一人として今この家に彼の仕事姿を見届ける人物はいない。
家の中は物の整理、掃除が行き渡っており、今すぐに来客が来ても安心して上がらせることが出来る程。
しかし、リビングにはお約束のソファは無くテーブルとそれとペアの椅子があること以外においては至って簡素。
風に揺られて踊る様に舞うカーテンは朝日で白く輝いている。
にしても、驚くべき家具の少なさだが其を違和感なく見れるのはこの家がお隣ご近所に比べて小さめのサイズだからだろう。朝風呂は気持ちいいけど俺にとって多用できるものではないな
テレビから向かってリビングと廊下を隔てるドアを開けながら一人の青年が入ってくる。
肩にタオルを掛け、トランクス一丁のその姿はだらしないが上腕筋や腹筋、鍛えられたその足腰は体で青年の若若しさを無言で物語る。
早起きとか苦手なんだよなぁ。もう時間がないし。
……今日も走るか。
そんな事を思いつつも体を動かすスピードは変わらず、挙げ句には台所で呑気にコーヒーを作り始めた。
コーヒー豆をいくつかスプーンで取り出し手動で豆を擦り潰す機械の中に入れ、ゆっくりと把手をまわしていく。
擦り潰しその挽き粉に湯を浸出して少量の砂糖を入れれば完成。
彼の歳を考えれば中々のこだわりである。
「猟奇殺人!同一犯か!?……ねぇ。」
カップを片手に持ち余った右手で新聞を読み始める。時刻は八時二十分、遅刻は確定的だ。
ある程度には目を通すも、芳しくないと感じたのか早々にコーヒーを飲み干して出発する。
残念ながらこのアナウンサーの仕事姿はこの家では背景にしかならない。
2007年7月中旬の16日月曜日
今日からまた彼、古雅峰 勇二(こがみね ゆうじ)の学校生活が始まる。
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