プロローグ

2/13
前へ
/188ページ
次へ
「あああ、あの、い、一円…足りてませんけどッ…!」 長い髪をポニーテールに結って、ロゴ入りの青い作業エプロンに身を包む、いかにも普通が似合う少女。 恐らく、バイトに勤む女の子だろう。 その子は顔を真っ赤にして、今にも泣き出してしまいそうな表情で言った。 まるで喉に詰まっていた異物を、苦痛の中ようやく吐き出せた瞬間のように。 …まぁ無理もないだろう、と思った。 “あんな人間”が目の前に居れば、誰でもそうなるはずだ。 「…はて?」 困惑する少女の前に佇む“それ”は、口元に人差し指を添えて首を傾げさせた。 しかし、その表情はほぼ無表情に近い。 「…どこかで計算を誤ったのでしょうか……なるほど、一円を笑えば一円に泣く…とはこのことでございますですね?」 自分の置かれている状況を、理解していないのだろうか。 “それ”は特に困るわけでもなく、何故か目を輝かせている。
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1077人が本棚に入れています
本棚に追加