プロローグ

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女の子は、ぽかんとした表情で一円を受け取ると、 「は、はい、これで万事OKなワケですけど…あなたは?」 たどたどしく、そう言った。 「…あ?」 彼はギクリとした。 まさかこんな大衆のいる場で、本名やら何やらを公開するわけにもいかない。 それよりも、早くこの場から去りたかった彼は、 「…こ、このメイドを遣えている主人だよ! メイドのやらかした粗そうは、やっぱ主人が責任を取らないとなっ!」 「…は、はぁ」 とんだでまかせを、堂々と宣言するように叫んだ。 …周囲の空気が凍りつくのが、痛々しいくらいにわかる。 「おい、メイド…もう失敗は許さんからな。 いいか?」 最後に最もらしい言葉を言い残し、彼は早足でその場を去る。 「…あっ、お待ちくださいでございますですっ!」 静止の声を、全く聞かずに。
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