過去なんて

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「お、先客か。君も、獅子座流星群見に来たの?」  その問いに、アリエスは一切反応を示さず、空を見続けた。 「俺は、獅子座流星群見に来たんだよ。興味は無かったんだけど、ちょっと気分が乗ってね。流星群って、流れ星じゃん? お願い事でもしようと思ってね。話したい人がいたからさ」  アリエスはそんな話をする少年の顔を見た。フェンスに背中を預け、ズボンのポケットに手を入れ、空を見上げる少年の姿をはっきりと見た。 「そんな迷信信じてるなんて、子供ね」  思わずそんな言葉が出た。アリエスは、ハッと口を塞いだが、時すでに遅し。口から出た言葉は、少年に届き、少年はその言葉に満面の笑みを浮かべた。 「やった! アリエスさんと話せた! お願いする前に夢叶っちゃったよ!」 「黙りなさい、地味男! それ以上口を開かないで、星を見逃すから!」  アリエスは、あまり見る気の無い星を言い訳に静かな空間を戻そうとした。しかし、静かになった屋上で、二人は寄り添うように座っていた。どちらが望んだわけでもないが、自然とそんな風になっていた。
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