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生きる理由。アリエスにとっては重要ではなかったこと。しかし、今この瞬間だけは、少し生きていてもいいかと思えてくる。それは、隣に人がいるからではなく、それは、一筋の希望を見出せたからではない。
ただただ、今見ている空がきれいで、逃げない人が近くにいて、ほんの少しだけいいなと思ってしまったからで……。一瞬の気の迷いに身を任せてそんな願い事をしてしまったのだ。
アリエスは、ふと隣に目を向ける。そこには、だらしない顔で涎をたらし、眠りこけている恵一の姿があった。
恵一は眠ってしまっていた。おそらくアリエスの願いも聞こえてはいなかっただろう。その恵一の頭は、重力に負けて次第にアリエスの太腿へと落ちていく。
アリエスはそれを避けるでもなく、優しく受け止めた。人の頭の重さが太腿にかかるのは初めての経験だ。しかし、不快ではない。そう感じていた。
「……子供みたいに純粋な寝顔だ。人の顔なんかまじまじと見たのすっごい久しぶりだ」
などと小さくつぶやく自分にアリエスは驚いた。
「この少年に私の心はどれだけかき回されてしまうのだろう……」
今までの均衡を破った少年の頭を優しくなでてそんな事を思う。
――ああ、神様。貴女はいったい私をどれだけ狂わせたいのですか……。
アリエスはそんなことを思った。だが、考えても仕方ないと、その少年を屋上に寝かせたまま、ゆっくりとその場を去っていくのだった。その後知ったのは、そこに居たのが、槇島恵一という隣のクラスの男子。ということだった。
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