過去なんて

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 ポチャン……と、川に石が飛び込んでいく。石の入ったところからは水が波紋を描き広がっていく。 「……ふぅ」  少女は……アリエスは鉛筆をスケッチブックに走らせた。夕焼けに染まった川を何度も何度も鉛筆を走らせて描いて行く。考え事をするとき、綺麗なものに目を奪われた時、そして、心が不安定な時にアリエスがとる行動だった。  スケッチブックに書いた絵を見ていると、自分がどんな気持ちで絵を描いていたかがよくわかるのだ。 「……あぁ、今日の絵はまた悩んでる時の絵だ……。こういう絵は見ていて心が落ち着くとか、そんな感情にはなれないよね……」  アリエスはふぅ、と一息つくと、完成した絵を角度を変えて見たりした後にそのスケッチブックを閉じた。 「嬉しい。うん、きっとすごく嬉しいんだ。だから、私は不安なんだ。恵一がいつか離れて行ってしまわないかと……。ま、まぁ別にあの男が何処に行ってしまおうと私には関係ないのだけれど……今まで突っ込みすら絶対に入れなかったような私が……久しぶりに突っ込みを入れた相手だから、っていうところが大きかったのかな? でなければ私があんな普通すぎる……むしろ地味な部類に入る恵一に『あんなこと』を頼むはずないもんね。うん、そうだよ。きっと特別なんじゃなくて、私に話した罰なんだわ」  そうやって自分を正当化しないと、まるで自分が恵一という男に恋でもしているような、そんな感覚に襲われてくるのだ。アリエスは、それが怖かった。
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