過去なんて

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「恵一……あなた、なんでこんなところに居るのよ?」 「なんでって、こっちが俺の家に帰る方面だもの?」  と、すこし疑問を持ったように話す恵一をみて、違和感は覚えなかった。確かに、家に向かうのであれば通るのも必然であろう。しかし、違和感があるのは、帰るためだけになぜわざわざ人の家の近くをうろうろしていたか。ということだった。 「なら、なぜ私の家の近くでうろうろとしていたの? 帰るだけならうろうろする必要はないよね?」  すると、 「分からない。でも、なんか、『ここで待て。お前の知っている人が――』とかなんか声がしたからなんとなくここで待ってただけだし」  不思議なこともあるものだね?  などと口には出来なかった。あまりにも出来すぎている。夢で確かに答えは出たが呼ばなくても良いではないか。それに、恵一を完全に認めたわけではなかった。否、認めたくなかった。アリエスを唯一曲げた人物は、 「……そう、私を唯一曲げた人物は、『おっぱい星人』だもの……。私の貧相で、面白味のないおっぱいなどには興味ないわよね?」  実際はすぐにでも認めたかった。しかし、認めない理由はそれだ。胸が小さいから。  今日、屋上で会ったときにはっきりと言われたことだ。『大きいに越したことはない』とは一切言わなかったが、問えば『勿論』と言われている。  深く考える必要はなかったのだが、アリエスは少しその言葉にショックを受けてしまった。自分ではいつ手に入るか分からない、もしかしたら、永遠に手に入らないかもしれないそれは、自分の意志では成長をさせることができない代物なのだから。  しかし、恵一は 「だから、俺はおっぱい星人じゃない! 俺は好きになった人のそれが好きなんだ! 決して大きいから好き。ってわけじゃないよ」  と、はっきりと言いきった。
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