過去なんて

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「それは、胸はないから張るだけ張ってせめて僅かでも大きく見せろという、そう意味なのかしら? そうだとしたら……」  そこで言葉を切り、不敵過ぎる笑みを浮かべた。 「怖い! 怖すぎるよ、アリエスさん! ちなみにそんな意味は一切ありませんから! いや、本当に、ですよ?」  アリエスはポケットから銀色の何かを出そうとしていたが、恵一の言葉を聞いてそれをひっこめた。恵一が、敢えて何だったか聞かないのは、聞き終わったときに命があるかが分からないからだろう。 「ならいいわ。まぁ、そんなことはどうでもいいのよ。せっかくだからご飯でも食べてく? 時間的にはちょうどいいんじゃない?」 「? ……え? それは、俺が作るの? それともアリエスさんが?」  ふと、アリエスは首をかしげた。そんなの言うまでもないのでは? という顔をしている。 「言わなきゃ分からないかい? さっきの言い回しで?」 「……すみません」 「ん~、しかたない。詳しく言うと、私は今から食事なの。一人分も二人分も作る量的にはほとんど変わらないから、私の家で晩御飯を食べて行ったらどうかしら? ということなんだけど、嫌? 嫌なら強制はしないわ。どの道、一人で食べるのも二人で食べるもの変わらないでしょうし」  そういうと、じっと黙って恵一を見た。強制的に食事に誘おう。という気は全く感じられない。本当に、ただただ純粋に恵一を夕食に誘っただけのようだ。  あまりにも見られすぎた恵一は、顔を真っ赤にして伏せてしまった。答えは決まっているのだが、口にはなかなか出せない。そんな顔をしていた。  時間にして数十秒だが、恵一にとっては数時間に感じられた。  恵一は覚悟を決めて、言った。
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