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二人は黙々と食事をした。会話を切りだすタイミングが分からなかったからだ。
カチャカチャと、食器の音だけが室内に響いた。
――しかし、おいしい。うちのお袋はともかくとして、里奈の……妹の料理よりも美味いとは、恐るべし、アリエスさん……。
恵一の内心は、アリエスの知らない部分を知れた感動でいっぱいだった。ストーカーとかではなく、純粋に、いいと思ったのだ。
すっかり日は暮れてしまったし、今から帰ってもおそらく夕食はすでに撤去済みだろう、と恵一は考えた。
恵一の妹である里奈は、夕食の時間をきっちりと決めており、特別な理由がない限りはその時間を過ぎると手をつけていない食事を、朝食へと回してしまうのだ。そのため、今日アリエスに誘ってもらえたのは、幾重もの意味でよかったと言えるだろう。
「け……恵一……ご飯、どうかな?」
先ほどまでの強気な姿勢はどこへ消えたのかと、そう疑ってしまうほどお淑やかな雰囲気を漂わせてアリエスは聞いた。
「……う、うん。すっごく美味しいよ。今まで食べた中で一、二を争うくらい美味しい。家でいつも食べるのよりも断然美味しくて……正直困ってる……」
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