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「……? 困るって、何が困るのかしら?」
恵一は言い淀んだ。
今、これを言うべきなのか、どうなのか。自分の中で整理がついていなかった。言っても問題は無いだろうが、もしも、その返事が『いいよ』だった場合を考えると、嬉しすぎて思わず頬が緩んでしまうに違いない。だが、言う場合はハイリスクではあるが、ハイリターンであると言えるだろう。ということで、
「アリエスさんの料理、家のより美味しいから家の料理が食べられなくなりそう……。毎日アリエスさんのご飯、いただきに来ちゃいそうだよ……」
カァーッと、恵一は顔が熱くなるのを感じ、それを悟られないために俯いてしまった。言ってしまった。言わなきゃよかった。そんなことが頭の中で永遠とループを続けていたが、言ったことを後悔はしたくなかった。言わない後悔より、言った後悔の方がずっと楽だ。と、誰かの名言であった気がした。
「……そう。なら、毎日屋上に、昼休みにでも来なさい。毎日……その、お……おおおお弁当くらい作ってってあげてもいいわにょ?」
最後、噛んでしまったことに対してか、自分の言ったことが恥ずかしかった所為なのか、はたまた両方なのか、アリエスの顔は真っ赤に染まり、人体発火温度を裕に超えてしまう勢いだった。
「……あ、ありがとう! お、俺、毎日アリエスさんに会いに行くな! お菓子かなんかもってさ!」
恵一はそう言って、アリエスの手をぎゅっと握った。とっさのこととは言え、大胆なことをしているのではないかと、恵一は頭では考えていた。だが、手は瞬間接着剤でも付けられたかのように硬くアリエスの手を握り続けていた。
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