過去なんて

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「け、恵一? は……恥ずかしいよ……」  時間にして数秒ではあったが、二人にとっては何十分にも感じる長い時間だった。まるで付き合い始めた恋人のようだ。……あくまで比喩である。 「ご、ごめん! アリエスさん! い、嫌だったかな?」 「……嫌に、決まってるじゃ、ない! そうよ、嫌に決まってるわ!」  声が裏返り、頬が紅潮している。照れ隠しに嫌だということを表現したかったようだが、それが逆効果。今話題のツンデレらしい態度が表に出てしまっている。 「……アリエスさん、可愛い……」 「か、可愛くなんて、ない、わよ! 馬鹿! 馬鹿馬鹿恵一の馬鹿!」  激しくし、恵一を思いっきり突き放した。あ、と、小さな声を上げはしたが、ふんっ、と、そっぽを向いてしまった。  恵一は床に少し倒れこんでしまったが、体勢を立て直し、 「不快な思いをさせたなら謝るよ……ごめんね……」 「そ……そんなこと……あ、あるわ! そうよ、恵一が悪いの! 私は悪くないわ。で、でも、突き飛ばしたのは、その、ごめんなさい……」 「う……うん、気にしてないから大丈夫だよ……」  二人とも、こういう経験は皆無だったため、二人して顔を真っ赤にして俯いてしまった。
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