過去なんて

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 数分の沈黙。不快感は無かった。徐々に引いていく熱に少しだけせつなさを感じたのは、アリエスだった。  ――どうしちゃったんだろう、私。ホントに、何もかもがおかしいや……。恵一のおかげ……なのかな?それにしたって、影響力はこんなにも早く訪れるものなのだろうか?  アリエスは自分の性格が徐々に変わってきていると、いや、急激な変化の時を迎えてると感じていた。  ――平常心……平常心……平常心……。 「アリエス、さん?」 「へいじょ!? ななななななに!?」 「あ、いや、す、好きなお菓子とか何かなーって、思って、ね?」 「あ、えっとね、甘いの。とにかく甘いのが好きだなぁー。なんちゃってー」  あははは、と、頭をかきながら笑う動作は、アリエスが物事をごまかす時に使っていた古い癖だ。最後にやったのは何時だろうか、などと、年数を指折り数えられるくらい、古くにやっていた癖だ。  その癖を見せたのはおそらくこれが三人目であり、そのうち二人はすでに存在すらしていなかった。  そんな数少ない存在である恵一は、ふむふむ、などと、ポケットに忍ばせていたメモ用紙に何かをメモしていた。メモ帳をしまう際、一瞬だけ見えたメモの表紙には、『材料メモメモ♪』と、まるで女の子が書いたかのように書かれていた。
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